HOST TOWN

エイミー、18才、ダウン症。妹にも障がいがある。家族は14人。
ようこそ、アイルランドの「小さな家の大家族」の愛と勇気の物語へ。

アイルランドの首都ダブリン郊外、ニューブリッジという町に暮らす、知的発達障がいを伴うダウン症の少女エイミー・パーセル。12人兄妹の9番目。セクレタリーになるという夢に向けて勉強している。2才下の妹リンジーは脳性マヒで下肢が不自由だ。2人の少女を支えるのは、優しい父と気丈な母、そして兄妹たち。初夏6月。エイミーの町は、ダブリンで開催される知的発達障がいのあるアスリートの祭典、スペシャルオリンピックス夏季世界大会に参加する日本選手団の“ホストタウン”になった……。

パーセル家の人々

前作『able/エイブル』で毎日映画コンクール記録文化映画賞を受賞した監督小栗謙一の最新ドキュメンタリーとなる本作は、アイルランドで開催された、2003年世界最大のスポーツイベントであるスペシャルオリンピックス夏季世界大会を背景に、日本選手団の“ホストタウン”となった小さな町に暮らす、小さな家の大家族を記録している。

映画の中心となるのは、ダウン症のエイミーだ。カメラは、エイミーの日常を捉えながら、彼女が「障がい者は健常者と違う」という固定観念を飛び越えて、級友たちと学校生活を楽しみ、セクレタリーになる勉強をする様子をとらえ、やがてその普通の日常こそが、エイミーとその家族の挑戦と闘いの成果であることを映し出していく。

かし、この映画は、“障がいを乗り越える”教科書的な家族の物語ではない。父親のパディは、今でこそ家庭を大事にする優しい父だが、以前はアルコール依存症だった。家にお金も入れず、パーセル家はいつも貧しさと直面していた。にもかかわらず、次々に産まれる子ども達。母親のジョージーはたった一人で子ども達を育てたようなものだったのだ。ひと時代前の小説や映画に描かれたアイルランドのステレオタイプといえるような“飲んだくれで、貧乏で、子だくさん”のパーセル家が、画面を30分、1時間と見るうちに、「ノーマライゼーション」という言葉よりも、障がい者に対する同情や不安や無理解に固められた人の心を、優しくほぐして解き放ってくれる。

エイミーともう一人、家族の中で印象的に描かれるのが、妹リンジーだ。彼女は脳性マヒで、昔は普通学校に通っていたが、今は養護学校に通っている。以前の学校になじめず、辛い思いをしたことで、自ら転校を希望したのだ。家族の中にいても自分は違うと感じることがある、とカメラに向かって告白するリンジー。自分の思いを言葉で表現することが不得意なエイミーの心の中にも、こんな葛藤があるのかも知れない。こぼれそうになる涙をこらえながら、自分の胸の内を正直に言葉にするリンジーは、ナレーションが伝えるように、本当の意味の「小さな戦士(ファイター)」だ。

大家族ゆえか、エイミーやリンジーを特別視することもなく、時にはきつい言葉も投げかけるパーセル家の人々同様、彼らのコミュニティに生きる人たちは、あくまで普通に彼女達に接しているように見える。近所の子ども達はわんぱくにエイミー達と遊び、クラスメート達はあまり真面目そうでもないがエイミーと仲良くやっている。セクレタリーの勉強をするトレーニングセンターも、リンジーの養護学校も特別な施設には見えない。ここには、障がい者のための声高らかな宣言があるわけでなく、そこから見えるのは障がいがあろうとなかろうと、同じサイズで生きる人たちの姿である。

映画を支えたスタッフ

ナレーションを担当したのは、映画化もされた大ベストセラー小説「アンジェラの灰」の作者フランク・マコートの弟で、ニューヨークで活躍するアイリッシュ俳優のマラキ・マコート。『彼女は最高』『デビル』などの映画、テレビ、ラジオのトークショーのホスト役、さらにエッセイストとしても有名なマラキの温かいアイリッシュ訛りは、さすがに「アイルランドの大家族」のエッセンスを見事に伝え、味わい深い。ちなみに、この人気者を本作のナレーターにキャスティングしたのは、宮崎駿など日本映画の英語字幕製作者として良く知られるリンダ・ホーグランド女史である。 音楽は、アレンジャー、プロデューサーとしてだけでなく、ソロアーティストとしても国際的に活躍する井上鑑。本作のテーマ曲は、英語の歌詞と日本語の歌詞をつけ、井上のアレンジによって、映画公開と同時にCDも発売されている 。

本作の製作のきっかけは、まず第一に、前作『エイブル』の大きな反響であった。知的発達障がいのある2人の日本の少年がアメリカでホームステイする『エイブル』は公開時に予想を上回る観客、しかも、それまで「障がい」を遠いものと感じていた人々をも多数集めた。その後の全国での上映会も含め、『エイブル』はこれまで10万人以上の人が見ている。そして、映画を見た観客たちから監督小栗謙一に寄せられたたくさんの感動のメッセージ。『エイブル』を見た観客たちの言葉のひとつひとつが、本作の原動力だったのである。

製作総指揮は、前作同様、NPO法人スペシャルオリンピックス日本の理事長を務める細川佳代子。2005年には、アジアで初めての冬季世界大会の長野開催を控えながら、前回同様フル回転で、映画の製作をサポートした。

前作に寄せられた“普通の人々”の感動の声に応えるように、スペシャルオリンピックス夏季世界大会という国際規模のビッグイベントを作品の背骨に据えながら、大会には出場しなかったエイミーとその家族の日常を見つめた本作。この普通の人々の愛と勇気の物語は、監督小栗謙一のまなざしと、それを支えたスタッフのチームワークから生まれている。「ようこそ、一緒に生きていこう」それは、“ホストタウン”のスピリットであると同時に、声高に叫ばない、現代社会に必要な共生のメッセージだといえるだろう。